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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)279号 判決

一 請求の原因一ないし四の事実及び本件補正によつて実用新案登録請求の範囲に「他方の凸条には上記挟圧部材に於ける軟質材を収縮させながらガラスを挟圧する挟圧部材を嵌着し」との構成が付加されたことは当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の本件補正却下決定の取消事由について検討する。

1 前記当事者間に争いのない請求の原因二1の事実と成立に争いのない甲第二号証によると、出願当初の明細書には、実用新案登録請求の範囲として請求の原因二1のとおり記載され、その考案の詳細な説明の項には、次のとおり記載されていることが認められる。すなわち、冒頭に「この考案は框に装着される別体の部材で窓ガラスを挟持して固定する窓ガラス固定装置に関するものである。」と本願考案の対象を明らかにし(同号証明細書一頁一三ないし一五行)、次いで、この種別体の部材で窓ガラスを挟持して固定する窓ガラス固定装置の従来例を二つ挙げ図面(別紙第一図面)第一、二図を示して説明している(同一頁一六行ないし二頁末行)。この説明において、窓ガラスを挟持する一方の弾性体(挟圧部材)はガラス板を取付ける障子の組立時以前にあらかじめ工場において框の内周溝に固定されるものであり、他方の弾性体(挟圧部材)は障子組立時に装着されるものであることが明らかにされている。この記載に続けて、「上記従来例では、工場で固定する弾性体(6)(10)が軟質弾性材料のみで作られているため、嵌挿または接着作業が煩雑となり、接着にばらつきを生じるほか、耐候性、耐久性に乏しく経年劣化により窓の気密性を低下させるなどの欠点を有していた。」(同三頁一~五行)、「この考案はこのような欠点の除去を試みたものであり、別体の弾性体の少なくとも一つを框に固定される部分を硬質材料、ガラス板を挟圧する部分を軟質材料として形成してなるものである。」(同三頁六~九行)と記載して、従来例の欠点とこの欠点を除去する本願考案の特徴とする構成を説明している。そして、図面第三、四図に示されている本願考案の実施例の説明に入り、「框(1)の内周溝(2)の対向内側面に相対向して設けられた凸条(4)(5)の一方に、この考案において新規に設けられた挟圧部材(11)が装着される。この挟圧部材(11)は硬質合成樹脂材料で作られた硬質部分(11a)と軟質合成樹脂材料で作られた弾性を有する軟質部分(11b)とを一体に成形して作られ、その硬質部分には框(1)の凸条(4)を挿通するための溝(12)が設けられている。凸条(4)および溝(12)は凸条(4)に装着した挟圧部材の離脱を防止するため断面鈎状または先端を膨大させるなどして形成されている。この挟圧部材はまた固定片(7)の接着とともに工場において凸条(4)に装着される。ガラス板(9)の取付けは従来例と同様である。」(同三頁一三行ないし四頁五行)と記載している。この記載に続けて、「上述のように、挟圧部材(11)は凸条(4)に保持される硬質部分とガラス板を挟圧し、これを保持する軟質部分とを一体に形成してなるから装着時の取扱いに便利であり、装着を容易迅速にできるとともに離脱がよく防止され耐久性、耐候性が優れ、従つて長期の使用により窓の水密性、気密性が低下することがないなどの効果を発揮しうるものであり、実用価値のある考案である。」(同四頁六ないし一三行)と本願考案の効果を記載して、考案の詳細な説明の項を終えている。

右認定の事実によれば、出願当初の明細書は、その実用新案登録請求の範囲に記載された構成に即して、ガラス板の取付時以前にあらかじめ框の内周溝の一方の凸条に装着される挟圧部材を凸条に保持される部分は硬質材料で、ガラス板を挟圧する部分は軟質弾性材料で一体に形成したことに本願考案の特徴があり、この構成により、この挟圧部材の装着時の取扱いが便利であり、その装着作業を容易迅速にでき、またこの挟圧部材の耐久性、耐候性が優れ、窓の水密性、気密性が低下することがないとの効果がもたらされることを、この挟圧部材が軟質弾性材料のみで作られている従来例との対比において説明しているものであることが明らかである。右出願当初の明細書において、他方の挟圧部材については、従来例の説明中において、「また凸条(5)には障子組立時に別の弾性体(8)を装着して、これら二つの弾性体(6)(8)の間に、ガラス板(9)を挟持し、」(同二頁九ないし一一行、別紙第一図面第一図参照)、「障子組立時に弾性体(8)を凸条(5)に装着して、ガラス板(9)を二つの弾性体(8)(10)間に挟持する」(同二頁一六行ないし一八行、別紙第一図面第二図参照)、と記載されているのみであり、本願発明についての「ガラス板(9)の取付けは従来例と同様である。」(同四頁四、五行)との記載から、本願発明の他方の挟圧部材も右従来例のものと同じであろうことが推認されるにすぎず、本願発明における他方の挟圧部材の構成、その作用効果について特段の記載はないことが認められる。

そして、成立に争いのない甲第三号証によると、右出願当初の明細書は、昭和五〇年八月八日付手続補正書により補正されているが、その実用新案登録請求の範囲の補正は請求の原因二2に記載のとおりであり(この点は当事者間に争いがない。)、その考案の詳細な説明の項の補正とともに、いずれも右に認定した出願当初の明細書の記載内容をより明確にする範囲を出るものでないことが認められる。

2 これに対し、成立に争いのない甲第四号証によると、本件補正は明細書及び図面を全面的に書き改めたものであることが認められ、本件補正により、実用新案登録請求の範囲に「他方の凸条には上記挟圧部材に於ける軟質材を収縮させながらガラスを挟圧する挟圧部材を嵌着し」との構成が新たに付加されたことは前叙のとおり当事者間に争いがない。

原告は、右付加された構成は技術常識に属し、出願当初の明細書において自明の事項であると主張する。しかし、出願当初の明細書には、この他方の挟圧部材に関して、前叙のとおり、従来例のそれが弾性体であること、障子組立時に装着されるものであること、一方の挟圧部材とともにガラス板を挟持するものであることが記載されているのみであり、本願発明における他方の挟圧部材も従来例のものと同じであろうことが推認される程度の記載しかない。そして、この他方の挟圧部材が原告主張のように軟質材である場合には、特段の立証がないので、被告主張のとおり、これを押込んでもガラスを圧して一方の挟圧部材の軟質材を収縮させながらガラスをやや外方へ移動させることはできないと認めなければならないから、これらの記載が、原告の主張する「他方の挟圧部材は、嵌着の際、ガラスを圧して一方の挟圧部材を収縮させながら、ガラスと他方の凸条との間隙を広げた状態で嵌着されるもの」という技術内容を開示もしくは示唆しているものではないことが明らかである。図面(別紙第一図面)についても同じである。また、このことが本願出願当時技術常識であつたことは、本件全証拠によつてもこれを認めることができない。原告がこれを立証するものとして提出した甲第五ないし第七号証のいずれにも右の技術内容が記載されているとは認められない。

そうとすると、本件補正により実用新案登録請求の範囲に付加された前叙の構成は、出願当初の明細書及び図面に記載された事項もしくはそれが技術常識であることから当然に記載されたものと当業者によつて理解される事項ということはできず、したがつて、本件補正は、出願当初の明細書及び図面には記載されていなかつたところの他方の挟圧部材が一方の挟圧部材における軟質材を収縮させるという機能を有するという新たな構成を付加するものといわなければならない。

3 以上のとおりであるから、本件補正は明細書の要旨を変更するものであるとした本件補正却下決定の判断は結局において正当であり、原告の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく、失当である。

三 よつて、原告の本訴請求を棄却することとする。

〔編註その一〕 本件における実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

本件補正前の実用新案登録請求の範囲

1 出願当初の明細書に記載された実用新案登録請求の範囲

框の内周溝の対向内側面に相対向して設けられた凸条に装着される各別の部材でガラス板を挟圧保持する窓ガラスの固定装置において、前記部材の少なくとも一方が凸条に保持される部分は硬質材料で、ガラス板を挟圧する部分は軟質弾性材料で一体に形成されていることを特徴とする窓ガラス固定装置。

2 昭和五〇年八月八日付手続補正による右記載の補正

右1の記載のうち「前記部材の少なくとも一方が」を「前記部材のうち、ガラスの取付時以前に予め框の内周溝に装着される挟圧部材(11)が」と補正された。

本件補正による実用新案登録請求の範囲

框の内壁に対応的に一対の凸条を設け、その一方の凸条は鈎形に形成して之に係合する部分を硬質材としその反対側で且ガラスに接する部分を軟質材とした挟圧部材を嵌着し、他方の凸条には上記挟圧部材に於ける軟質材を収縮させながらガラスを挟圧する挟圧部材を嵌着してなる窓ガラスの固定装置

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙第一図面(出願当初の明細書添付図面)

<省略>

別紙第二図面(昭和五〇年一二月一一日付手続補正書による明細書添付図面)

<省略>

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